猫が水をよく飲む…「多飲」の目安と、腎臓からのサインの見分け方
「よく飲むようになった」は、猫からの数少ないはっきりしたサイン
猫は不調をかくす名人で、痛くても鳴かず、つらくても普通に過ごそうとします。そんな猫が出す、数少ない目に見えるサインのひとつが「水を飲む量の変化」です。
もちろん、夏場や暖房のきいた部屋、ドライフードに切り替えた直後、運動のあとなど、自然に飲水量が増える場面はたくさんあります。ですが「ここ数週間、明らかに水入れの減りが早い」と感じるなら、それは様子を見るより数字で確かめたほうがいい変化です。
まず「本当に増えているか」を測ってみる
飲水量は、計量カップで水入れに入れた量を測り、24時間後に残った量を差し引くだけで確認できます。複数の水飲み場がある場合は全部を合計してください。
健康な猫の飲水量は、体重1kgあたり1日およそ45mlまでとされることが多く、これを超えたあたりから多飲を疑いはじめます(フードの水分も含む量なので、ウェットフード中心の子は水入れから飲む量がぐっと少なくなります)。獣医学的に「多飲」とはっきり定義されるのは体重1kgあたり1日100mlを超えた場合で、4kgの猫なら1日400mlがそのラインです。ただしこの数字に届かなくても、その子にとって明らかに増えているなら、それだけで相談する理由になります。
ただし数字はあくまで目安で、食事内容や季節に大きく左右されます。大切なのは絶対量よりも「その子のいつもと比べてどう変わったか」です。だからこそ、元気なうちに一度測っておくことに意味があります。
いちばん大事なのは「おしっこも一緒に増えているか」
水をよく飲むだけなら、暑さや食事の影響かもしれません。しかし飲水量とおしっこの量・回数が同時に増えている(多飲多尿)場合は、体の中で水分を保てなくなっている可能性があります。
おしっこの量は、トイレ砂の塊が大きくなった・数が増えた・シートの交換が早くなった、といった変化で気づけます。次のような様子が重なるときは、特に注意してください。
- 水入れの減りが早く、おしっこの塊も大きくなった
- 食べているのに体重が減ってきた
- 毛づやが悪くなった・パサついてきた
- 口のにおいが強くなった、口の中を痛がる
- 吐く回数が増えた、食欲にムラがある
猫の多飲多尿の背景として代表的なのは、慢性腎臓病・甲状腺機能亢進症・糖尿病などです。いずれも早く見つかるほど打てる手が多く、猫では特に、これらは中高齢期にごくありふれた病気でもあります。「うちの子に限って」と考える必要はまったくありません。
知られていない事実:血液検査に出るころには、腎臓はかなり働きを失っている
あまり知られていませんが、一般的な血液検査の腎臓の数値(クレアチニンなど)は、腎臓の働きが7割以上失われてからでないと、はっきり上がってこないとされています。つまり「検査で異常なし」は「腎臓が万全」とイコールではありません。
近年はSDMAという、より早い段階の変化をとらえやすい検査項目も広く使われるようになりました。そして飼い主さんが気づける多飲多尿は、こうした検査に先んじて現れることもある、貴重な手がかりです。
もうひとつ知っておいてほしいのが、腎臓を静かに傷める仕組みです。体のどこかで小さな炎症が長くつづくと、SAAという炎症のたんぱく質が高いままになり、それが腎臓に「アミロイド」として少しずつ沈着してしまうことがあります。一度沈着したものは元に戻せません。歯ぐきや皮膚の小さな炎症を放置しないことが、実はいちばんの腎臓のお守りになるのです。
受診を考える目安
飲水量とおしっこが両方とも増えている/体重が減ってきた/上のサインが2つ以上重なっている。このいずれかにあてはまるときは、様子見をやめて相談してください。逆に、ぐったりしている・呼吸が苦しそう・まる1日食べていないといった場合は、すぐの受診が必要です。
受診のときは「いつから」「1日にどれくらい飲むか(測った数字があれば理想的)」「おしっこの様子」をメモしていくと、診察がぐっとスムーズになります。血液検査だけでなく尿検査もあわせて相談すると、腎臓の状態をより早くとらえやすくなります。
水を飲む量のほかにも、気になるサインがないか整理したいときは、無料のチェックツール「CSSC(Cat's Silent Sign Checker)」をどうぞ。関節・口腔・消化器・皮膚・腎臓の5系統をタップで整理でき、結果はそのまま獣医師さんに見せるメモにできます。
無料でチェックしてみる- A Stepwise Diagnostic Approach to Polyuria and Polydipsia. Today's Veterinary Practice.(多飲は1日100mL/kg超、多尿は1日50mL/kg超と定義。猫のPU/PDで多いのは慢性腎臓病・糖尿病・甲状腺機能亢進症)
- The ins and outs of polyuria and polydipsia. dvm360.(猫の通常の飲水量は1日45mL/kgを超えないとされる)
- International Renal Interest Society (IRIS). CKD Staging Guidelines. iris-kidney.com
- Diagnosing and staging early chronic kidney disease in cats. Veterinary Ireland Journal.(高窒素血症はネフロンの約75%が失われてから現れる。SDMAは約40%の段階で上昇しうる)
- AA-amyloidosis in cats (Felis catus) housed in shelters. PLOS ONE. 2023;18(3):e0281822.(慢性炎症で血中SAAが高い状態が続くと、腎臓などにアミロイドが沈着する。シェルター飼育の短毛猫で52〜73%という高い保有率が報告されている)